未来につなぐいのち


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未来につなぐいのち

藤野高明 著
定価 1680円(本体価格 1600円)
ISBN4-902244-81-6 C0036

●点字の獲得は光の獲得でした

戦後まもなく、不発弾の爆発で両眼・両手を失うという痛切な体験から、点字を得て希望を取り戻し、教師を生きがいとして教育や福祉の現場で活躍してきた著者。
二重の障害とともに歩み、学び、獲得し、成長をとげてきたその生き方から、人間のもつ可能性と、いのちの大切さを感じとってほしい――

●未来を生きる若者たちに贈るはげましのメッセージ

●もくじ  

まえがき

第1章 私の原点―不発弾に奪われた手と光
 1 人と時代に恵まれて
 2 『あの夏の朝から』平和の願いを

第2章 『あの夏の朝から』その後
 1 有田八千代さんへの手紙
 2 熊本の高校生たち
 3 四人の女の子たち
 4 早春の岡山にて

第3章 平和への願い
 1 早足でせまる戦争の影に
 2 平和への願い
 3 生きることはすばらしい
 4 憲法と靖国問題
 5 わたしとビキニ事件

第4章 生きる力、学ぶ喜び
 1 宇治川と山本宣治
 2 抱きしめたかった小さな少年
 3 マイアミの星の下で
 4 「すずめサークル」の頃
 5 教職に生きて
 6 障害を壁と思うか扉と思うか

第5章 バリアフリーを求めて
 1 岩崎啓子さんへの手紙
 2 小さな女性秘書
 3 視力障害者にも日刊新聞を
 4 目立たない交通バッジを
 5 落ちる
 6 要望実った「初めての点字」
 7 テレビ放送のバリアをもっと低く
 8 点字郵便投票の実現を

第6章 全日本視覚障害者協議会とともに
 1 全視協のあすに
 2 全視協と私
 3 三〇周年を迎えた全視協 これからの仕事

第7章 生き方を学ぶ
 1 和波孝禧さん
    二一世紀を音楽と文化の香り高き時代に
 2 文化の泉 守った人 本間一夫先生との出会い
 3 見えない駒に夢と魂を込め続けた西本馨六段
 4 愼英弘さん 学問研究と社会活動の統一に点字毎日文化賞
 5 信念を貫き爽やかに生きる西岡恒也先生

あとがき
初出一覧

まえがき

 二〇〇六年三月、私は妻藤野カヨコを病気で亡くしました。優しい人でした。謙虚な人でした。誰からも頼りにされる人でした。背筋を伸ばし、明日を見つめて、明るく生き抜いた人でした。妻は、私の光となり希望となって寄り添ってくれました。また、妻ほど私の存在をこの上なく頼りにしてくれた人もほかにいないでしょう。
 二人の子どもを育て苦楽を共にしてきました。共通する政治信条を持ち、文学を語り、音楽を聴き、同じプロ野球球団を応援してきました。その日々は、楽しく、充実していました。その妻が私より先にいなくなったのです。生活が一変しました。心に大きな空洞が開いたみたいで、いつも風が吹き抜けていて、何をしても空しく手応えが感じられないのです。生きる気力が身体から抜け落ちていく感覚をどうすることもできませんでした。時折、発作のように悲しみが押し寄せて来ました。
 それでも人間は悲しみから立ち直らなければなりません。それがどんなに困難なことであっても、そういう努力をしなければならないと、今思っています。そうしなければ、心を残しつつ先立った妻に申し訳ないからです。妻が孫たちの誕生をどんなに待ちわび喜んだか、そしてその成長にどんなに美しい夢を描いていたか、私は知っています。
 命を慈しみ育てることは、こんなに自然で素晴らしいことなのに、私たちの周りで展開されていることは、なんと残酷なのでしょう。命を軽んじ、踏みにじることの多さに、耳をふさぎたくなるほどです。
 アメリカによって引き起こされたイラク戦争は、早や四年を超え、かつての太平洋戦争よりも長くなりました。バグダッドなどで自爆テロがあり、大勢の人が殺されたり傷つけられたりしているのに、人々はもはやあまり関心を持たないような状況が生まれています。
 死んでしまうことはたいへん辛いことです。断ち切られた命は、次の世代を生まないからです。傷つけられた心も身体も、やはり辛いものです。人は自らの障害に打ち勝って生きる術を知っています。しかし、もともと健康だった心と身体を戦争や暴力で損なわれ、苦悩と痛みを死ぬまで背負わされるのは、どうあっても許せません。
 私も戦争で弟を失い、自分も大きな障害を強いられました。見えなくなって六〇年余りの年月が経ちました。父や母の顔がすでに思い出せないほどの長い時間です。この六〇年こそ日本の戦後史と重なるのです。
 「死んだ弟の分までしっかり生きてよ」、母に諭されました。学び、働き、闘いながら、私は母の教えを守って生きてきました。
 そして、私の“今”があります。
 妻カヨコが愛したもの、それは人の命と平和です。命を未来につなぎ、豊かに育てること、なんと希望に満ちた営みでしょう。
 それは平和でなければ果せません。大きな歴史的代償を払って手に入れた戦後の平和をもう一度確かめ合い、守りぬくことの大切さが問われる時代が来ようとしています。
 今の私にできることは、時流に流されるのでなく、未来に命をつなぐ平和の守り手として生きることだと思います。

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みんなのねがい 2007年8月号
夕刊 読売新聞 2007年6月19日

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