| ●はじめに
第1部 インクルーシブ教育の基本的な考え方
1 特殊教育からインクルーシブ教育へ
2 インクルーシブ教育をどう捉えるか
3 障害者権利条約・教育条項の意義
4 教育における排除
5 学校・地域づくりに打って出る
第2部 【実践編】インクルーシブ教育への先駆的な取り組み
――すべての子どもの学習権・発達権を保障する教育
第1章 一人ひとりの子どもたちとていねいに向きあう
――通常学級のインクルーシブな学級・授業づくり
1 子どもの生きづらさに向きあう
2 子どもとの出会いから学ぶ
3 一人ひとりの子どもたちとていねいに向きあう
4 大切にしてきていること
5 発達的・共感的な子ども理解を
第2章 インクルーシブな授業と学級づくりを
助ける支援者の役割
――通常学級に入って支援してきたこと
1 支援員の役割を考える
2 子どもが生きづらい通常学級の現状
3 学級全体を視野に入れた支援の取り組み
4 支援者の立場と役割
5 支援員制度の今後の課題――質量ともの充実を
第3章 すべての子どもを学校全体で受けとめる
――特別支援学級の授業実践と学校づくり
1 すべての子どもを見守るとの共通理解から
2 「障害がある」ではなく「特別な支援」が必要だから
――特別支援学級の課題
3 学級・学年・学校全体での学習活動の展開
4 通常学級の授業と切り結ぶ授業づくりを
第4章 学校と地域の拠点としての特別支援学級
――同僚性と共同性に依拠したインクルーシブな
学校・地域づくり
1 特別支援学級「あすなろ」「とちの木」
2 特別支援学級を中心に据えた学校づくり
3 学校と地域を縦横に、何層にも展開する活動
4 ささやかではあるが最大の支援を
第5章 教育的力量そのものを高めていく地域支援の試み
――特別支援学校のセンター的機能に求められるもの
1 教育力を高めるための校内合意形成の意義
2 教育の専門性とは何か
3 私たちの考える「センター的機能」
4 対等性と直接性を意識した地域支援活動
5 校種を超えた連携を
第3部 インクルーシブ教育の課題
第1章 インクルーシブ教育思想の形成と論点
1 インテグレーションからインクルージョンへ
2 インクルーシブ教育論の類型
3 多文化教育とインクルーシブ教育
第2章 インクルーシブな教育実践と共同の原理
1 新自由主義の競争・排除とインクルーシブ教育
2 カリキュラムの改革と授業づくり
3 共同性と同僚性の取り組みと学校・地域づくり
4 日本におけるインクルーシブな実践の展望
第3章 インクルーシブな教育システムの構築
1 障害者権利条約の意義と検討課題
2 特別ニーズ教育の国際的動向
3 日本の教育制度をどう改めるか
●インクルーシブ教育を日本ですすめていくために
――あとがきにかえて
1 インクルーシブ教育をすすめる原則は
2 学校づくり・地域づくりの取り組みを全国で
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はじめに
二〇〇七年度から特別支援教育の制度が始動しました。特別支援教育とは、これまでの特殊教育、すなわち盲・聾・養護学校と特殊学級および通級による指導に加え、発達障害の子どもを新たな対象とし、小・中学校等における通常の学級の在籍者への全校的支援および特別支援学校や関連機関などによる支援をすすめようとするものであり、その限りでは国際的な特別ニーズ教育(Special
Needs Education)の大きな流れに沿うものであるといえます。しかし、特別ニーズ教育が、障害だけでなく家庭や民族・文化的背景などいろいろな要因による学習困難の子どもを広く対象としているのに対し、日本の特別支援教育は依然として障害(基本的に視覚障害など一〇種類)のある子どもに限定しています。
他方、二〇〇六年一二月の第六一回国連総会で採択され、二〇〇七年九月に日本政府も署名した障害者権利条約では、インクルージョンを差別撤廃・人権保障のための基本的理念の一つに掲げ、教育(第二四条)についてもインクルーシブ教育の原則を採用しています。特別支援教育にかかわる学校教育法改正が国会で審議された際にも、インクルージョンやノーマライゼーションといった国際的動向を踏まえるという付帯決議がなされています。
このように特別ニーズ教育やインクルーシブ教育は、これからの教育の大きな流れとなっていくはずのものですが、教育現場に目を転じてみれば、とてもそのようなことを考える余裕もないというのが正直なところかもしれません。特別支援教育関係者の間では、特別支援学校の新たな課題となった地域の小・中学校等への支援や、特別支援学級教員に期待される通常学級への支援など、授業担当以外の職務による負担増ばかりが実感され、他方で通常の教員にとっても、今の自分のクラスに障害のある子どもを積極的に受け入れる余裕はないし、またどうやって指導すればいいかもわからないという不安を抱えているのが実情でしょう。必要な人的・物的条件整備が十分になされず、極度の多忙化や管理強化にさらされている中で、多くの教員がインクルーシブ教育に消極的になってしまうのも、ある意味でやむを得ないように思われます。また、親の期待も温度差があり、とくに通常の教育が抱えているさまざまな問題を目の当たりにして、インクルーシブ教育は理想論としてはわかるものの現実味を感じていないという人も少なくないかもしれません。
しかし、憲法や子どもの権利条約の理念、子どもの最善の利益の原則に立って、すべての子どもの学習権・発達権を保障していくためには、もっと積極的にインクルーシブ教育に挑戦していく必要があるのではないでしょうか。そのためにも、インクルーシブ教育とは何か、国内外でどのような取り組みがなされ、いかなる課題をもっているのかを検討・考察していく必要があります。
本書は、このような問題意識に応えようと企画したものです。インクルーシブ教育に関するこれまでの多くの文献は、諸外国における理念・思想や政策の基本原則にかかわる個別的な紹介がほとんどでした。しかも、インクルーシブ教育を、かつての「分離」に対する「統合」教育(インテグレーション)、すなわち障害児を地域の学校、通常の学級で教育し、可能な限り健常児と同じ教育を行うことと、ほとんど区別しないまま理解される傾向があります。
それに対し欧米では、インクルーシブ教育を、障害や学業不振、言語・文化的背景、貧困などさまざまな不利益要因を抱える子どもたちの「排除」に対置させ、かれらの学習活動への参加を平等に保障することとして捉え、すべての子どもの差異と多様性、固有のニーズとアイデンティティを尊重しつつ、発達を最大にするための学校教育全体の改革と理解されるようになってきました。研究の関心も、イデオロギー的論争から具体的なカリキュラムの多様化や行財政のフレキシビリティ、あるいは学校や地域のケース・スタディにシフトしつつあります。
日本でもこれから、インクルーシブな教育システムを構築していくためには、特別支援教育制度を念頭に置きつつ、とりわけ小・中学校などにおける授業・学級づくりや学校づくり、あるいは特別支援学校と連携した地域づくりがすすめられなければならないでしょう。本書は、インクルーシブ教育の基本的理念と課題、諸外国の動向と先駆的取り組みを整理し、同時に日本国内における授業実践と校内連携や地域ネットワークにかかわる先駆的な取り組みを紹介し、すべての子どもの学習権・発達権の保障を志向するインクルーシブ教育の可能性を展望しています(なお、第2部の実践で登場する子どもたちはすべて仮名にしています)。特別支援教育関係者にとどまらず、一般の教員、親、地域の人々などすべての学校教育の関係者に、何らかの参考としていただければ幸いです。
二〇〇八年四月
執筆者を代表して
荒川 智
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