| はじめに 3
第1章 AD/HDのわが子と歩む
1 期待と重責を担って
――妊娠から出産まで
2 不安とジレンマ、厳しい現実の連続
――乳幼児期
3 眠っていた能力の発見
4 AD/HDのつらさと理解ある先生との出会い
――学童期に入って
5 二次障害と家庭崩壊の危機
――九歳の壁と母の落ち込み
6 苦難を乗り越えて
――成長の苦悩、ともに育つ母
7 成長とともに問題は複雑化?
第2章 AD/HDの診断と治療
1 今なぜAD/HDが注目されているのか?
2 診断の仕方
3 AD/HDの脳のメカニズム
4 必要な検査
5 間違えやすい他の疾患(鑑別疾患)と
その見分け方
6 合併しやすい他の疾患(併存障害)
7 AD/HDの治療
8 日本の医療現場の現状とこれからの課題
第3章 親訓練を通してみるAD/HD児の
接し方のヒント
1 なぜ「ならAD/HD家族教室」が
はじまったのか
2 ならAD/HD家族教室(サポートクラス)の
実際
3 ロールプレイの一例
4 サポートクラスの効果
5 参加家族の感想
6 親訓練を通してみる対応のコツ
7 アメリカの親訓練との違い
8 今後の展開
第4章 日米の違いから、これからの
AD/HDへの取り組みを考える
1 医療体制の違い
2 教育現場の違い
3 UCLA医療現場レポート
4 生活習慣の違い
第5章 AD/HDの子どもは、どう成長していくか
1 大人のAD/HD
2 経過と予後
3 早期療育の重要性
4 AD/HDの大いなる可能性
第6章 AD/HD・LDの教育と指導
――「軽度な発達障害」と特別支援教育
1 保護者・保育士・教師は、発達的に
子どもを見ましょう
2 AD/HD・LDの教育実践で気を
つけること
3 軽度な発達障害の良い面・特性を生かした
保育・教育を――個別での指導が大切
4 軽度な発達障害と学級経営について
――教師はプロデューサーであり
優秀な俳優でなければならない。
計画的で楽しい授業を
5 思春期の生徒の発達と教訓
――ポップコーンの例会などでの
話し合いから
6 質問がよくでる教育現場での対応の
困難な問題について
第7章 AD/HDの幼児期から思春期への発達
―― 事例を通して
1 障害児・特別支援教育についての学校
全体での取り組み
2 入学と二次障害を起こさせない取り組み
3 一年生の二学期と三学期の変化
4 小学校一年生を終わるにあたっての
課題と成果
5 二年生以後の発達について
6 子どもの成長を願って
「博と歩んだ母親の手記」
7 四年生の障害児学級担任の先生から
8 小学校高学年での発達
9 教育実践で学んだことと課題
――二次障害を起こさせないために
10 学校教育以外で、発達を支えたものは?
第8章 心とことばと内面の表現力を育てる絵の指導
1 働く手指を育てる
2 子どもの絵の発達の道すじ
第9章 脳の活動を活性化させ、イメージ力と
ことばを育てる絵本の指導
1 絵本の指導で大切にしたいこと
2 私が指導をして、楽しんで取り組めた
教材の紹介
3 さあ、あなたも子どもと一緒に
絵本の世界へ
◆◆◆関連記事◆◆◆
・毎日新聞 2007年11月27日版
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はじめに
ここ数年の間に、AD/HDという障害について、日本でもいろいろな情報が紹介されるようになりました。学校や地域、もちろん家庭の中でも、好奇心旺盛な彼らの行動が、社会的に見てその場にそぐわなかったり、ちょっと困ってしまうことが、たくさんあるからではないでしょうか? みんなと同じことができないということは、社会の中では、非常に大きな問題となってくるのです。
家庭では「親のしつけができていない」と両親が責められ、落ち込み、悩む。保育園や幼稚園、学校では「担任教師の力量不足」と先生方が責められ、対応に困り果てる。「あの子はAD/HDだから、ちゃんと対応してください」と言われても、何をどう理解して、対応したらよいのかもわからない。両親にとっても、教師にとっても、未知の領域なのだから、仕方がないことかもしれません。ただ、手をこまねいていては、子どもにも、そして何より自分自身に、どんどん負担がかかってきて、あまりよい策は浮かんでこないでしょう。
まずAD/HDは目に見えないけれど、できないことがある「障害」なのだと認識し、受け入れるところから始めていかなければなりません。両親にとってはつらいことかもしれませんが、前向きにとらえていただきたいと思います。みんなと同じことが、同じようにできない、と考えるより、みんなのできないことが、できるじゃない、というように考えると楽しくなるものです。要するに、個人個人がもっている「よいところ」を探す楽しみが生まれるのです。それまでは、困ったところ(他の人と同じようにできないから、困った子?)ばかりを見て、イライラし、感情的に叱ってばかりいたけれど、よいところ探しをするようになってからは、楽しいこともいろいろ見えてきました。みんなと同じことをすることが苦手な(できにくい)子どもに、みんなと同じようにさせようとするから、大変なのです。「みんなと違っていいんだよ」と思えるようになってあげることが、AD/HDの子どもたち、人たちを理解する第一歩だと思います。
本文中に手記を書いてくださったやまだともこさんも、AD/HDをもつ主婦の一人です。家庭の主婦は、食事、洗濯、掃除、片づけなど、いわゆる「家事」ができて当たり前、という観点でしか物事をとらえられなければ、ともこさんのようにとてもつらい思いをすることになるでしょう。そこで、理解のあるサポーターが必要になるのです。ともこさんの場合は、それが一番近くにいた、ご主人だったわけですが「おまえが片づけられるようになるなら、そういった道具を買えばいい、わからないなら聞け」。このことばのおかげで、どれだけともこさんに生きる喜びが与えられたことか。私は自分の子どもに、こんなに素晴らしいことばをかけてあげられるかどうか、自信はありませんが、こんなサポーターになってあげたいと思います。そして、こんなふうに考えられるサポーターが、社会にたくさんいていただきたいものだと願っております。
この本は、AD/HDの正しい理解と支援を求めて活動を全国に広げている「えじそんくらぶの会」の一つ、えじそんくらぶ奈良『ポップコーン』に所属する三人が、AD/HDにかかわっておられる関係者や保護者の方々に、何らかの形でお役に立てることができたら、という願いをこめて執筆いたしました。
えじそんくらぶ 奈良『ポップコーン』は二〇〇〇年九月(発足時は奈良AD/HDの会「ポップコーン」)、親と医師、教育者である三人が、お互いが手をつなぎあっていくことの必要性、重要性を強く感じ、ともに立ち上げた会です。
親のしんどさ、医師のはがゆさ、教師のつらさ、そして何より「わかっているのにできない」という、目に見えない障害をかかえた人たちの苦しさを、社会の中で理解していただけるよう、私たちで役に立てることは、どんなことだろうか? 何ができるだろうか? と考えながらのスタートでしたが、あっという間に、会員数が七〇名を超えてしまいました。また、公開講演会を開くと奈良県内だけでなく、大阪などの他府県からもたくさんの参加者があります。「相談してもわかってもらえない」「話す人がいない」「どうしたらいいのか、わからない」など、毎日寄せられる悲痛な叫びに対応しながら、AD/HDという障害の理解者が、社会の中にいかに少ないかということを、改めて感じております。
今、私たちは「公開講演会」や「ペアレント・トレーニング・ポップコーン版」「サポーターズ・トレーニング」「インストラクター養成講座」「勉強会」「各学校への出張講習」などの活動を行いながら、例会などで出された悩みや相談について、解消法を模索し、見えない敵?AD/HDとたたかっております。たとえ一人ずつでも、AD/HDのよき理解者、サポーターを増やしていくことが、今は大切だと思っております。ゆとりをもって、あたたかい目で子どもたちとかかわりあいながら、私たちにできることからはじめようと、この本の出版に至りました。
本書は初版から六刷まで版を重ねてきました。初版発行より五年半という月日が経過し、発達障害をめぐる諸事情も変化してまいりました。このたび、内容の一部を改訂、加筆し改訂新版として出版させていただくことになりました。
第1章は、AD/HDの子どもをもつ私が、今まで歩んできた子育ての体験と家族の苦悩、そして、それをどう乗り越えてきたのかを、書かせていただきました。改訂新版では二〇〇七年九月(高校三年生)まで加筆しています。
精神科医の岩坂英巳先生には、第2章「AD/HDの診断と治療」として、現場の臨床経験をふまえて、基礎知識から専門的なことまでの、具体的戦略を書いていただきました。そして、アメリカ留学で学んでこられたことを中心に、第3章「親訓練を通してみるAD/HD児の接し方のヒント」、第4章「日米の違いから、これからのAD/HDへの取り組みを考える」を書いていただきました。特に第3章では、アメリカの親訓練を、日本の実情にうまくかみあわせてつくりあげた「ならAD/HD家族教室」の実践内容を具体的に展開していただきました。
第5章「AD/HDの子どもは、どう成長していくか」では、大人のAD/HDの方の手記を交えながら、思春期、成人期の経過と予後、早期療育の重要性、AD/HDの大いなる可能性について、述べていただきました。改訂新版では初版以降、研究が進み、最新の知見による内容と今後の課題を加筆、改編していただきました。
長年、小学校の教師として、たくさんの障害児教育の実践を積み重ねてこられた、西田清先生には、第6章「AD/HD・LDの教育と指導」、第7章「AD/HDの幼児期から思春期への発達」、第8章「心とことばと内面の表現力を育てる絵の指導」、第9章「脳の活動を活性化させ、イメージ力とことばを育てる絵本の指導」を書いて頂きました。改訂新版ではここ数年、充実してきた教育実践の内容を反映して全面的に書き下ろしていただきました。
特に第6章、第7章では、まだまだAD/HDの教育実践が少ない中で、AD/HD児への教育の対応方法を具体的にまとめていただきました。その他の章では、長年の障害児教育実践の中で、体得してこられた、AD/HD児にも有効であろうと思われる、ことばや認識、心を発達させる「絵画」や「読み語り」の教育実践例を展開していただきました。
本書ができあがるまでには、この三人の執筆者だけでなく、多くの方々のご協力がありました。そして大人のAD/HD、やまだともこさんから、これからの子育てや医療、教育に参考になるならと、手記を寄せていただきました。また、編集に関して、クリエイツかもがわの田島さんに適切なアドバイスをいただきました。ここでお礼を申し上げます。
第2章の冒頭で詳しく書いていますが、AD/HD=「注意欠陥・多動性障害」という訳は、障害を理解するうえで、あまりふさわしい訳ではないと、私たちは思っています。したがって本書では、単にAD/HDと表現してあります。
この本を、多くの父母や学校の先生、関係者の方々が手に取り、お読みくださることにより、AD/HDへのよき理解がさらに拡がることを、心から願っております。
二〇〇七年一〇月
えじそんくらぶ奈良『ポップコーン』
代表 楠本 伸枝
(「はじめに」より) |