| ●パーソンセンタード・ケアの「成功物語」とは?
…ボブ・ウッズ
序 章●よい実践をモザイクのように積み重ねて
…トム・キットウッド
第1章●その人の過去を通じて
第2章●リズムのある社交的な人生に戻る
第3章●自己の喪失と再発見
第4章●恐怖に駆られて安全な世界を守る
第5章●最上級のサービスを求めた英国紳士
第6章●隠された苦悩の深み
第7章●唯一の悲しみの表し方
第8章●本当の脅威への反応
第9章●社会的な役割から締め出されて
第10章●痛みの壁を穏やかにのりこえる
第11章●愛の重要なカギ
第12章●友情という贈り物
第13章●鎮静剤、手術、そして足の爪
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●日本の読者のみなさんへ
2005年4月
ボブ・ウッズ
(ウェールズ大学教授・老年臨床心理学)
1990年代の初めにトム・キットウッドのパイオニア的な見解が発表されて以降、「パーソン・センタード・ケア」は、多くの国で大きな議論と論争の的になってきました。この言葉はすでに広く使われるようになっており、今日、認知症(痴呆症)ケアにおける最良の実践をどのようなものとして考えるか、ということの基礎を形づくっています。しかしながら、パーソン・センタード・ケアが求めるケア文化の変化が達成されるのには、時にイライラするほどの時間がかかります。
そうした原理をすでに採用したといっている所でさえ、認知症の人たちは、なお自分たちのニードが十分に理解されていないと感じたり、自分たちの望みや好みを尊重してもらえないような状況のなかで、自分自身の価値の喪失を経験しているのです。
パーソン・センタード・ケアを実践にうつすのはやさしいことではない、というのが現実です。ケアワーカーや家族介護者は、不十分なサポート体制のなかで、自分たちが大きなプレッシャーを受けていると感じていることでしょう。多くの認知症の人たちは、他の認知症の人や別の障害をもった人たちと一緒にケアを受けています。
ケアワーカーは、ある人のニーズや選択と、それに対立するような他の人のニーズや選択とのバランスをとらなければならないことを知ります。そのような状況では、ある人のウェルビーイング(幸福)を達成することは、他の人のイルビーイング(不幸)の代償によって達成されるようにさえ思えるかもしれません。あるいは、他にしなければならないことがあまりに多いために、時にはケアワーカーが望んでいるような仕方でケアを提供する時間がないと思われることでしょう。
もし、キットウッドの早過ぎた死がなければ、彼は、ケアワーカーや家族介護者に対するパーソン・センタードなサポートを提供することの重要性について、もっと多くのことを語っていたことでしょう。また、認知症の人とケアを提供する人との関係性──これこそが、認知症ケアの核心を形づくるのですが――を育むことの重要性を強調していたことでしょう。私はそのように確信しています。
本書のケース研究は、実践におけるパーソン・センタード・ケアを提供することの意味を私たちに示してくれる重要な報告です。私たちに、このことが時にはいかに困難であるか、そして、パーソン・センタード・アプローチを維持するのには根気がいることを教えてくれます。とりわけ私たちに、認知症の人の状態は変えられないものではなく、私たちが提供するケアの質によって影響されるものである、という希望と信念の大切さを示しています。
私は、幸いなことに2004年10月、京都で開かれたアルツハイマー病の国際会議のために日本を訪問する機会を得ました。1)その会議はとても感銘深いイベントでしたが、それは単にこの種の集まりとして過去最大のものであったという理由からではなく、日本の認知症ケアの領域における関心の深さがきわだっていたからです。
私は、日本においてパーソン・センタード・アプローチへの関心がとても高いこと、そして、多くの人が認知症ケア・マッピング2)(DCM:Dementia
Care Mapping)の教育を受けていることを知りました。このトム・キットウッドが開発した観察法は、パーソン・センタード・ケアを進める、あるいは逆に妨げる、認知症ケアの実践のための評価を助けるものです。
京都会議のなかでもっとも重要であった側面は、多くの発表が初期の認知症の人たち自身によって行われたことです。わずか二、三年前には、こうした光景を見ることはありえませんでした。もし誰かが認知症と診断されたならば、彼はもうだめだと見なされ、その人からの貢献が求められることはありませんでした。
今の日本では、認知症の人と家族介護者、そしてケア専門職が、パーソン・センタード・ケアの実践とは何を意味しているのか、その認識を打ち立てるためにともに働く、という真のパートナーシップの可能性がひろがりつつあります。「パーソン・センタード・ケア」に対してリップ・サービスするのではなく、もっと多く実践しようという意欲にあふれ、求められる責任の中身とその広がりをよく探求するならば、とても多くのことが成し遂げられるでしょう。
私は、この小さな書物がケアにおける希望の成長をうながし、そこに示されたすべての認識が、認知症の人のQOL(生活の質)に重大な差をもたらすであろうことを信じています。
訳注1) 2004年10月、京都において、3日間にわたって国際アルツハイマー病協会の第20回国際会議が開かれた。この会議において、ウッズ教授は、ゲスト・スピーカーの一人として基調講演などを行った。ここで述べられているように、今回の会議においては、初めて複数の認知症の人が講演を行い、このことは新聞やテレビなどのメディアで報道された。
訳注2) 認知症ケア・マッピング(DCM):痴呆ケアの質を評価するために開発された観察式の尺度。専門のスタッフが、24の行動カテゴリーを6段階で評定する。 |