東京問題


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東京問題

編著者 柴田徳衛
定価2520円(本体価格2400円)
ISBN978-4-902244-75-5 C0036

●市民が住み続けられる東京をめざして

世界の都市から見ても異質な発展をとげる世界都市東京。市民が住み続けられる東京を実現するために、いま解決しなければならないこと――「東京問題」
土地、住宅とその環境、防災、医療、水と電気、オリンピックの視角から論じる実用的な都市政策の提案。

●都市・行財政の研究者と都市問題の実践家による共同著作

●21世紀、都市のための「東京問題」解決の処方箋

推薦
 宇沢弘文(東京大学名誉教授)
 森まゆみ(作家)
 五十嵐敬喜(法政大学法学部教授)

●もくじ  

グラビア「TOKYOのいま」
まえがき―都市問題と都市政策
 
第1章 東京問題の背景―住宅・土地から見て
 
 1 都民の生活環境
 2 地価から東京を見る
 3 周辺居住区の土地所有状況と地価
 4 周辺宅地価格の構成要因
 
第2章 世界都市問題の最前線を往く
 
 1 六本木ヒルズを歩いて
 2 都市中心部への集中は世界的傾向
   ―土地と住宅問題に悩む世界
 3 最大の世界都市問題は、巨大な都市人口
 4 国境なき「都市」間インフラ
 5 一人ぐらしが多数の東京都心
 6 多国籍住民と共生する東京d
 
第3章 オリンピック、スポーツイベントと都市
 
 1 オリンピックの変容と東京招致
 2 「TOKYO1964」の歴史的意味
 3 オリンピックの変容
   ―コマーシャリズム、グローバル化、メディア
 4 スポーツイベント招致と都市再生
 5 東京のオリンピック招致・開催は何をめざすのか
 6 「世界都市=東京」へ向けて
 7 オリンピックの「拒否」―反対運動の論点
 8 オリンピックと足下のスポーツ環境
 
第4章 東京の交通政策を考える―道路、公共交通を中心に
 
 1 東京の交通政策を考える
 2 ディーゼル車規制と交通政策
 3 環状道路建設問題
 4 公共交通の課題
 5 TDMはどうなったか
 6 真のモーダルシフト実現のために
 7 私たちの提起
 
第5章 死者を出さない都市政策―防災と都市政策
 
 1 東京の災害は日本最大規模
 2 石原都知事の防災(治安)政策の特徴
 3 私たちの防災
 4 災害に関する法律
 5 災害あれこれ
 6 近年の都市型災害の例
 7 日本と世界の災害被害および対策
 8 行政側の防災対策
 9 住民側の対策
10  住まいと環境改善ネットワーク
  
第6章 居住改善からまちづくりを探る
 
 1 木造住宅密集市街地こそまちづくりの焦点
 2 脱「木密」のまちづくりへの出発
 3 都市政策としての密集住宅市街地
 
第7章 東京の保健・医療問題
 
 1 激変する保健医療
 2 日本の医療は世界一
 3 大都市東京の保健医療はどこが問題か
 4 「東京都保健医療計画」の評価
 5 石原都政の医療破壊
 6 都立病院の役割と再編整備
 7 東京都の保健医療政策の限界と可能性
 
第8章 水の商品化と電気の構造改革
 
 1 水の商品化―回収された群馬産「東京水」
 2 電力自由化のための構造改革
 
第9章 〈空〉と〈音〉と〈水〉の東京の都市改革
 
 1 東京を、良い都市に
 2 都市から消したいものと取り返したいもの
 3 〈水〉と〈音〉と〈空〉の東京論
 4 東京に捧げる詩
 
第10章 東京問題の解決を求めて
 
 1 問題の根底にあるもの
 2 どこから手をつけるか?
 
●図説・世界都市東京
遺伝子操作による人間改造「世界」都市づくり
「世界情報都市」による東京の地域格差の発生
東京は、どのような経過で「新自由主義都市政策」に至ったのか
東京メガロポリスと臨海開発と物流機能強化
 
あとがき


まえがき―都市問題と都市政策

 表題「東京問題」は、東京の都市問題を意味する。
 都市問題と一口にしても、住宅難、通勤難から学校、就職や電気、水、ゴミまで多岐にわたる。これらが相互に関連なく皆さんに迫るが、その底に一連の根が横たわり、そこから現実に色々の困難が現れるのではないか。その対策が弱かったり、無視されていないか。地方自治を、憲法でも民主主義の出発点とする。都政を身近とし、困難の根を見つけ力を合わせチャレンジすれば、相当の成果をあげうるはずだ。日本は世界から豊かとされ、東京はその豊かさを大きく集中する。都民の力を合わせ上記の根を見つけ攻めれば、諸困難が解決できぬはずがない。
 ではその都市問題の中心は何であり、そもそも先進世界の都市でいつごろこの用語が登場してきたか。そして、都市問題の認識は、必然的にそれに対応する「都市政策」の出現をもたらすはずだ。西欧におけるこの間の問題認識と政策出現の経緯がどうかと見ると、一七世紀に入り資本主義の萌芽が先進英国に見えるとともに、首都ロンドンの急成長、過密貧困地域の拡大がみられた。それにつれそれら地域を中心に、伝染病(ペスト・コレラなど)の急激な蔓延・死者の急増があった。それが契機となり、為政者が労働力の大量喪失と自身への伝染を重大な「都市問題」と認識した。やがてそれへの「都市政策」として一八世紀に入り下層階級(労働者)の健康な環境を守る住宅・清掃など、とくに上下水道の建設・改良が試み始められた。一九世紀の産業革命とともに、公衆衛生行政が、パリ、ミュンヘンなどを含め都市政策の中心になってきた。
 日本もまさに一七世紀に入るや、江戸が新興大都市として登場し、参勤交代といった海外に比類なき制度により、全国の大名・家臣を集中させ、一七世紀末にはロンドン・パリをしのぐ巨大都市を形成させた。しかしユニークな点として、参勤交代とならぶ鎖国の制度により、西欧都市を苦しめた伝染病の激烈な病原菌が日本では水際で防御された。重い年貢に苦しむ地方農民が江戸の豊かさを求め大量流入し、粗末な木造家屋が集中する過密地に頻発する火災などで多くの死者を出したが、幕府当局の都市問題意識には登場しなかった。したがって江戸の都市政策は、江戸城を守りその権威を増すことに終始した。
 幕末の開国から明治維新に入り、激烈な伝染病は一挙に東京を襲った。だが明治新政府は、ドイツの新興細菌学に注目し、日本医学の英才をそこに送り込み予防医学の成果を大きくあげた。その一人野口英世が現在も千円札の像にその栄を讃えられている。労働者・兵士の人的損失はそれだけ防げた。明治維新のスローガンは富国強兵であり、そのため提唱者の意図とは異なるが、都市政策として「道路橋梁及河川ハ本ナリ、家屋下水ハ末ナリ」の句が重視され、軍備拡張のための鉄道、工場が都市建設で重視された。大正デモクラシー時代に入り、東京の市民生活のために住宅改良や福祉施設の拡充がやや進んだが、不幸にして昭和に入り大不況から満州事変(日支事変)、太平洋戦争と入り、さらに戦災で東京は大きく破壊されてしまった。
 戦後は戦災復興第一としながら、生産力の拡充、コンビナートの建設や港湾埋立、産業道路や工業用水道の建設などが先行し、公害が都民を襲い、東京に住む都民生活の住宅・土地、通勤交通、公害対策などの視点における都市政策は大きく遅れた。
 以下本文で章を分け、東京をめぐる住宅と土地、交通、医療、防災、水と電気などをめぐる問題を論じていくが、上記のような大きな都市問題、都市政策の視点から読み進めて下されば幸いである。また本書のタイトルを『東京問題』としたが、京都や大阪の方、その他日本各地の都市にお住まいの方たちにも参考にしていただけることを願っている。本書が住み続けられる東京への具体的提案として議論され、東京問題さらに都市問題一般の研究が深まり、その対策・政策が少しでも進めば、執筆者一同はまことに幸いである。

(柴田徳衛・二〇〇六年一二月)

 

柴田徳衛(しばた・とくえ)
東京の本郷湯島にある江戸中期以来の建築材料商佐野屋8代目として生まれる。
東京大学経済学部卒。東京都立大学教授、東京都企画調整局長、東京経済大学教授等を経て現在、同大学名誉教授。
主要著書:『東京―その経済と社会』『世界の都市をめぐって』(ともに岩波新書);『現代都市論』『都市と人間』『日本の清掃問題―ゴミと便所の経済学』(ともに東京大学出版会);『東京の常識は世界の非常識』(自治体研究社);『明日への東京宣言』(本の泉社)


◆◆◆推薦文◆◆◆

宇沢弘文(東京大学名誉教授)

 日本の経済社会は、小泉政権の五年間に経済的、社会的格差が拡大して、極めて不安定な、殺伐とした、魅力のない国になってしまった。市場原理主義の精神に則って、医療、教育など、人間的営みにさいして、もっとも重要な、大切な社会的共通資本まで、規制緩和、効率化の名のものとに、実質的には官僚的管理を極端な形に押し進めてきた結果、現場の医療関係者や教師たちはいま極限的な状況に追いつめられている。その非人間的な状況を象徴するのが、いたいけない小中学生の、いじめによる自殺の頻発である。このような悲惨な事件が日本ほど頻繁に起こっている国は世界のどこにもない。
 この日本の悲惨な、非人間的状況がもっとも象徴的に現れているのが東京である。とくに、五年間にわたる石原都政によって強行された「貧困と格差拡大」政策によって、東京のおかれている状況は、まさに、その極限的状況に達しつつある。今から九十年前に出版され、私たち世代の生きざまに決定的な影響を与えた河上肇の『貧乏物語』の状況が、考え方によっては、いっそう深刻な形で、現在の東京に再現されている。この東京に未来はあるだろうか。私たちは今、戦後六十年間を通じて、もっとも深刻な状況に直面している。このとき、柴田徳衛さんの『東京問題―Tokyo & its Challenges』が刊行された。東京の、この冷たい、非人間的状況がいかにして生成されたかについて、冷静な経済学者の目で、的確に分析した上で、どうすれば、東京を暖かい、人間的な都市に再生させることができるか、説得的な議論を展開している。とくに、柴田さんの子どもたちを見る目は暖かい。このすばらしい本が、できるだけ多くの人々に読まれて、日本の子どもたちの未来を暖かい、美しいものにする契機が形成されることをつよく願うのは、私一人ではないことを確信したい。

 

森まゆみ

 二十三年間、私は東京都心の地域活動家として歴史的遺産や貴重な自然を守ろうとしてきた。でも私の中で何かが臨界点に達した。たくさんのなじんだ建物が消え、木が切られた。空地がなくなり、崖はコンクリでかためられ、長屋は高層マンションになった。くやしいから、私は丸ビルにも六本木ヒルズにも上ったことはない。
 本書はこうした東京破壊の元凶を明らかにし、現状を分析、打開の道を探っている。シングル世帯、外国人居留者、ワーキングプアの増加、再びの東京オリンピック計画、産院の閉鎖、高い介護保険、新たな問題が次々と浮上し、それらを正しく認識するだけでも本書は役にたつ。「東京再生」の名のもとでの再開発、一方活力をなくす地方。東京は「独り勝ち」なのだろうか。断じて違う。おいしい水、きれいな空気、星空、木のざわめき、そして農を求めて、私は居を半分、父親の地に移した。それでも本書を読むと、東京がかわいそうになり、東京を見捨てないぞ、とつよく思う。

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