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はじめに
第1章「感覚過敏」というけれど 1 りょうた君とイヤーマフ 2 いくま君との名コンビ復活 3 あっこちゃんの「感覚過敏」 4 「感覚過敏」っていったい何?
第2章「ひと・モノ・人」の関係をはぐくむ 1 遠足、手をつなげないと… 2 バルーンはなぜ必要だったのか 3 遠足本番は、ハト大好きのりょうた君 4 モノを持っている人、持っていない人 5 「待て待て」から「待てえ〜」へ
第3章 生きた言葉をはぐくむ Part1 1 言葉が少ないって本当なの? 2 りょうた君理解は口頭詩から 43 3 モノとの関係の中で紡ぎだされた言葉 4 エコラリアは先生の仕事? 5 相手を意識し、相手に働きかける言葉が 6 書き始めた文字、そして「生活を綴る」へ 7 絵描き歌とことば 8 人間関係の中で、ことばは豊かに 9 要求と感動は、言葉とともに
第4章 偏食指導は『人間関係』を食べる── 1 白ご飯からの出発 2 チョコレートクリーム一〇〇個注文! 3 りょうた君メニュー満載の盆 4 「食べられるようになった自分」を感じて 5 「これ残していいですか?」から『食』の自立へ 6 自分で作ったものを食べる 7 サツマイモ食べたよ 8 「雑煮食べたいなあ」 9 玉ねぎ食べたよ! ―『偏食』は我がままじゃなかった 10 どの子も『人間関係』の中で
第5章 「一緒に!」に隠された思い── 1 運動会は不安とプレッシャーがいっぱい 2 りょうた君が「入れて」と言えるのを待つ 子どもたち 3 心を寄せあったからこそ跳べた二人縄跳び 4 不安を安心に変えるもの ―五年のリレーから六年のリレーへ 5 りょうた君が「いっしょに!」と言うとき 6 できるという見通しと自信、そして、 楽しさと安心感を
第6章 生きた言葉をはぐくむ Part2── 1 生活を綴る 絵日記編 2 言葉によるイメージの世界を広げる 3 見えない部分が見える漢字カルタ 4 口頭詩に見る心の発達 5 生活を綴る 作文・絵日記編 6 人間関係をはぐくんだ絵本の読み聞かせ ―「ノンタン」から「怪傑ゾロリ」まで 7 豊かな言語活動を生み出してきたもの
第7章 育つ心は友だちとともに ―仲間の中でこそ育つ子どもたち── 1 ノート配りは友だち理解の第一歩 2 空中輪投げ、友だちの得点が 3 いくま君とかくれんぼ 4 写真こわくないで、いくまが写したろか 5 副リーダーに心を寄せて 6 「ぼくできるで、教えたろか」の声に自転車 猛特訓 7 「いくま君、うまいことひかれへんからなあ 教えてあげようか」 8 クッキー、誰にあげるの? 9 そばにいてくれるだけで安心 ―りょうた君の卒業式
第8章 親の願いとインクルーシブ教育── 1 「この子が大きくなったとき…」に向き合う 2 「父親でさえ…」の重さ 3 「入れ物」か「内容」か 4 ともに成長・発達を喜びあえる関係を
〈生活綴方の思想〉にねざす自閉症教育論 ――熊本勝重さんの実践記録に寄せて
おわりに――依存(甘える)があるから自立がある |
はじめに
「偏食がきついんだけど、どうしたらいいの?」 「言葉をしゃべられるようになればいいのになあ」 「パニックとどう付き合えばいいの?」 「耳を押さえて逃げていこうとするんだけど」 「どうしたら手をつなげるようになるんだろう」 ……… 自閉症児の教育、子育て、何をどうしていったらいいの? こうした思いは、自閉症児と出会った人ならだれもが一度は感じたのではないだろうか。私もその一人である。
自閉症児を理解するためにと発達検査や自閉症に関する本に頼ってみることも多い。しかし、自閉症という障害については何となく理解できるのに、目の前にいるこの子のことがなかなか理解できないでいる。そんな思いがいつも付きまとってきた。こんな悩みをもったことはないだろうか。 意思疎通をカードに頼ったり、スケジュールを絵や表にして表示したり、しなければならないことを絵カードなどで示したりする。そうしたことを私は極力避けてきた。そして、りょうた君の豊かな言葉の世界を大切にしてきた。 そんな様子をお話ししたときのことだ。あるお母さんが「遊びに連れていくときはスケジュール表を作って行動するんですが、それでも途中で『いやだ!』とパニックを起こして大変になります。そんなときどうしたらいいのかわからなくなってしまうのですが…」というようなことを話された。私たち教師もそうした状態に陥ることが多い。
HOW? どうしたらできるようになるの? させるには、どうしたらいいの?…… といった考えに陥ってしまうのである。どうしたら給食を完食させることができるの? というように。 WHY? なぜ、彼は食べないのだろう? なぜ、おこっているのだろう? なぜ、したくないのだろう?…… こんな考えも必要ではないだろうか。 HOW? とWHY? は大きく違う。 WHY? にはなかなか答えが出ないことが多い。私も一年もたってからようやくわかったこともある。 それでも、子どもを前にしたときには、「もしかすると○○なのではないだろうか」「○○かもしれない」と彼の心の中を推察し、「こうすればうまくいくかもしれない」といろんなものを用意してつき合ってきた。 うまくいくときもある。うまくいかないときもある。しかし、いつも最後に行きつくところは、彼をしっかり見る、彼の事実から出発する、彼の言葉や行動から読みといていくということにほかならなかった。
自閉症児と向かい合ったとき、もうひとつ大事にしてきたことがある。安心感である。この先生といることで安心できるという「人間関係」の中での安心感。 彼らは、私たちが思う以上に不安な世界で生活している。どう寄り添えば安心して生活できるのか。「頑張らせる」のではなく、「してみよう」という前向きな気持ちを育てることこそ大事だと思う。 予定通り行動する(させる)ことが大事なのか、この先生となら一緒にできると行動することが大事なのか。 彼の行動のもととなっているものに違いがあるように思う。
自閉症児は、本当はどんなことを感じ、何を思っているのだろう。一人ひとりの子どもの願いと心を大切にするということを、りょうた君の人としての育ちを通して考えてきた。 そこには、彼を取り巻く仲間がいた。伝えたくなる生活があった。あふれんばかりの言葉があった。その時その時に、りょうた君が何を見、何を思い、何を求めてきたのか。彼との六年プラスアルファの長い関わりの中で、読みといてきた彼の心と発達について、つたない実践とともにここにまとめさせていただいた。 『人間関係』『言葉』『安心』をキーワードに、「できない!」と「わかりたい!」のはざまで揺れ動く自閉症児の心と発達、教育と子育てを考えていきたいと思う。 本書の内容が、自閉症児の教育、子育てにとっていくばくかのヒントを提供できることを願っている。 今日どんな花が咲いたのか。そして、明日どんな花が咲くのだろう。自閉症児の発達に期待してやまない心をもってほしい。きっと素晴らしい花ひらく明日が、あなたと自閉症児に訪れることだろう。
最後に、『自閉症』という障害ばかりを見て、自閉症児『その人』を見ることを忘れないでほしい。そうすれば、きっとそこから新たな展望がひらける。そんな思いをりょうた君の育ちから読みとっていただければ幸いである。
津久井 進
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