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はじめに
分からない言葉を考え議論する
1 言葉はいろいろ
手話もいろいろ、人による違いもある
2 ろうあ者にとっての口話
優等生には視線はりつけの刑?!
3 日本手話・日本語対応手話
その1 理屈からでなく、ろうあ者の手話の実体から出発してほしい
4 日本手話・日本語対応手話
その2 「日本語対応手話」という「手話」は存在しない
5 障害者・障がい者・障害のある人
言葉の過去の由来にこだわりすぎない
6 手話の法的認知、公用語化
認知はあるが法的保障がない
7 手話通訳者の専門性
抽象的な言葉でなく、具体的な課題についての議論を
8 手話コーラス、手話の歌
ろうあ者には楽しくないコーラス、カラオケはOK?
9 ろう文化
その1 言葉が先行して、人によってイメージが違う
10 ろう文化
その2 ろう者のやり方はなんでも「ろう文化」?
11 ろう文化
その3 「ろう文化」ありきの論理を解明してみる
12 話し言葉と書き言葉
手話は話し言葉だけか? 日本語について考えてみる
具体的に考えよう
あとがきにかえて
松本晶行 Matsumoto Masayuki
1939年大阪市生まれ。8歳のときに流行性脳脊髄膜炎により失聴。その後、聞こえないという理由で復学を断られ、大阪市立ろう学校小学部に編入。1年、3年、5年と飛び級で進級し、5年の2学期からろう学校に籍を置いたまま、ろう学校の近くの小・中学校に通う。中学3年の時に転校という形で、籍も中学校に。その後は高校、大学と進学。京都大学法学部卒業。1966年弁護士登録。財団法人全日本ろうあ連盟副理事長、社会福祉法人全国手話通訳研修センター理事など。
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はじめに
分からない言葉を考え議論する
これ、なんちゅう字 ◆ ◆ ◆ ◆
30年以上も前のことだから若い人はご存じないと思うが、南都雄二というタレントがいた。ミヤコ蝶々とコンビの夫婦漫才で売り出した人である。漫才師らしくないごく真っ当な名前だから、私は長い間、本名そのままとばかり思っていた。
ところが、いつだったか、蝶々さんの回想記を読んで知ったのだが、南都雄二の名付け親は蝶々さん。蝶々さんがいつも言っていた言葉の洒落だったのである。
蝶々さんは旅役者の子どもで学校に行った経験がない。勉強は、周囲の大人に教えてもらいながら、自分でするしかなかった。新聞や雑誌なんかで分からない字に出くわすと「これ、なんちゅう字?」と周囲に尋ねて教えてもらった。結婚後も、相棒でもある夫に同じように聞き続けた。この口癖のような、周囲にも夫にも言い続けてきた言葉を、そのまま夫の芸名にしたのだそうだ。「なんちゅう字?」「何とゆう字?」「ナント・ユウジ」「南都雄二」なのだそうだ。
いい話だなと思って記憶に残っている。
なんやろな、それ ◆ ◆ ◆ ◆
蝶々さんではないが、私にも、よく使う言葉がある。
なんやろな、それ…、だ。
質問に似て質問ではない。ひとりごとに近いがひとりごとそのものでもない。質問とひとりごとが渾然一体となったようなものと言うと、比較的近いだろうか。
会話のなかで、分かったようで分からないことに出くわすと、「なんやろな、それ」と自然に口に出てくる。手にも出てくる。ちなみに、私の手話では、人差し指をあごにあてての手話〔おかしいな〕と人差し指を二回軽く振っての手話〔それ〕の複合語か、手話〔おかしいな〕と人差し指を左右に軽く振る手話〔何〕の複合語か、どちらかになっているようだ。手の動かし方と首の傾げ方がポイントになる。
村上ファンド問題 ◆ ◆ ◆ ◆
2005年から2006年にかけて、「村上ファンド」問題が世間を騒がせ、プロ野球のタイガースファンをいらいらさせ、怒らせた。「村上ファンド」が阪神電鉄の、そしてプロ野球の阪神球団の株を買い占め、会社を支配しようとしたのである。
飲み屋なんかでも、ごく普通に「投資ファンド」「株式公開買い付け(TOB)」「ホールディングス」あるいは「インサイダー取引」といった言葉が飛び交っていた。
「村上ファンドなんて、しょせんは利ざやが目的なんだからね」
「だからこそインサイダー取引をやったんだよ」
「TOBで阪神はどうなるんだ」
「阪急と経営統合だな」
「阪急タイガースか」
「いや、阪急阪神ホールディングだよ」
といった会話である。
私も、そんなふうにあれこれ言っていた一人である。
しかし、本当に分かって言っていたのか、と問われると、自信がなくなる。他の人も多分同じではないだろうか。
「投資ファンドとは何か」「インサイダー取引とはどんな取引か」「株式公開買い付けは誰に対して何をどうすることか」「経営統合とは何か、阪急阪神ホールディング誕生とは何がどうなることか」と具体的な説明を求められると、話し手も聞き手も、詰まってしまうのではないだろうか。
知らないことを知ったかぶりで言っていたわけではない。分かっているつもりでワイワイやっていたのである。しかし、あらためて考え出すと分からなくなってしまう。意味を説明せよと言われると困る。分かっていたようで実は分かっていなかったのだ、と分かってくる。
不明解語 ◆ ◆ ◆ ◆
まあ、こういった経済用語(?)ならきちんとした定義・説明がある。解説書を調べたら出てくる。人によって意味が違うなどということはあり得ない。
しかし、最近、ろうあ者関係、手話関係の用語で、分かったようで分からない言葉が増えてきたように思う。よく使ったり、よく見たりする言葉だが、考え出すと意味が分からなくなるものがある。例えば、ろうあ者とろう者。例えば、日本手話。例えば、ろう文化。例えば…。
言葉の定義があるようでなかったり、人によって定義が違っていたり、そんな、考え出すと分からなくなる言葉、つまり「不明解語」である。
分からない言葉は「なんやろな、それ」と考え、議論するしかない。そんな言葉についての私なりの考えを書かせていただくことにした。
繰り返すが、「なんやろな、それ」は質問とひとりごと(自問)とが合わさったものである。
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