ふつうのむらが動くとき
 ―地域再生への道を探る


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ふつうのむらが動くとき

築山崇/桂明宏 編著
定価 2100円(本体価格 2000円)
ISBN978-4-86342-012-0 C0036

●資源を活かしたビジネスモデルを提起
地方分権、市町村合併など、地域経済活性化策が転機を迎え、自立を迫られている小さな“むら”や“まち”。
暮らしを守る手だてを模索する集落を元気にするには―
先進地事例に学びながら、リーダー育成、農村政策、地方財政、地方自治体の役割といった視点から、むらづくり・まちづくりの取り組みの第一歩を探る。

CONTENTS  

はじめに

事例編 case

第1章 動き出したむら―鱒留調査
 試みの舞台
  1地理・自然・文化・歴史
  2農業
  3藤社神社祭礼について
  4祭りをめぐる今後の課題など
   ―二〇〇八年三月 報告・懇談会での話題から

 鱒留へ
  1この地区を守っていきたい
   ―一一月・第一次ヒアリング
  2むらづくりの新たな芽―二月・第二次ヒアリング

 内なる力
  1地域活性化における地方自治体の役割と
   取り組みの経過
  2丹後地域における農業・農村の維持
   ―農林商工部長の提案
  3地域活性化とマーケティング
   ―鱒留地区のむらづくりのために

第2章 個性ある先駆者たち―先進地事例
 地域活性化と人づくり
  1はじめに
  2旧大宮町のむらづくり方式
  3地域の再発見と課題解決に向けた住民活動
  4むらづくりと人づくり
  5おわりに

 自治公民館活動を軸に―宮崎県綾町
  1調査のねらい
  2調査スケジュールと主な内容
  3歴史・地勢・人口・産業など
  4照葉樹林文化都市づくり
  5自然生態系農業
  6自治公民館
  7綾町の創造的発展の多様で魅力的な担い手
  8賢治の学校 綾自然農生活実践場
  9綾わくわくファーム

 日本1/0村おこし運動―鳥取県智頭町
  1智頭町活性化プロジェクト集団
  21/0村づくり運動の理念と仕組み
   ―住民自治/地域経営/交流・情報
  3成功要因と課題

 地域活性化プログラム―長野県飯田市
  1市産業経済部産業振興支援課の取り組み
  2「市民共同発電」の取り組み

理論編 theory

第1章 地域振興とリーダー育成総論
 1地域振興・活性化の基本課題
 2公民館の再定義
 3今日的リーダー像とその育成

第2章 農村政策と地域振興
   ―人材とコミュニティーのあり方を視点にして
 1地域力が試される時代
 2人的資本・ソーシャルキャピタル・行政との
  パートナーシップ
 3むら社会と地域振興―難しいむら社会との調和

第3章 地方環境税の可能性と制度設計をめぐる課題
 1既存地方税制のグリーン化の可能性
 2普通税(一般財源)か目的税(特定財源)か
 3制度設計をめぐる課題

第4章 「三位一体改革」下での地方財政

第5章 地域再生における地方公共団体の役割
   ―地域自治組織と基礎自治体の施策
 1旧大宮町「村づくり」成功の条件
 2京丹後市における地域自治組織
 3市の地域振興施策と担当組織

第6章 「地域の暮らしを支える協同と福祉」を考える
   ―大宮町「常吉村営百貨店」の事例から
 1丹後地域について
 2「村営百貨店」の着眼点
 3地域での「女性の力」とネットワーク
 4奥大野の女性(五一歳、五四歳)の声
 5下常吉の女性(四二歳、四五歳)の声
 6高齢化の進展と「地域の福祉力」
 7常吉村営百貨店を中心にした「村づくり」

第7章 みんなで創る地域と福祉
  ―多様な視点から人間の幸福を考える
 1「人間の福祉」とは何か
 2「セーフティネット」としての福祉から
  「共生」の福祉へ
 3ボランティアの発想力と「一人ではない」
  という精神的健康
 4協同で地域を創る具体的な提案

おわりに

はじめに

 筆者が幼かった頃、ちょうど昭和三〇年代、町の市場は威勢のいい呼び込みの声と買い物客の交わす会話で賑わいがあった。同時に初めてスーパーマーケットなるものができ、物珍しさで一、二階をつなぐエスカレーターに乗ったのも子どもの頃の記憶である。その頃山深い集落では、囲炉裏を囲む板の間に筵を敷いて、家族が夕餉を囲んでいた。徳島の山村で幼少期を過ごした家人から聞いた話では、家族それぞれの食器を収めた箱膳があり、雨が降れば蓑を使っていたという。大都市と山村では五〇年以上の時の隔たりを感じさせるエピソードである。しかし、その頃都市に市場の賑わいがあったように、農山村には、集落をあげての共同作業と濃密な人間関係、祭りや年中行事にみられる伝統文化が息づいていた。
 こうした光景が失われ、都市の過密と農山村の過疎、それにともなう生活環境、生活スタイルの大きな変化が生じていったことは、高度経済成長の光と影として繰り返し語られてきたところである。
今日に直接連なる時代の変化として語られるのは、八〇年代末のバブル経済とその崩壊、それに続く『失われた九〇年代』であり、今日のキーワードは、格差の拡大や、ワーキングプアといった社会構造の新たな矛盾の物語である。
 特に地域のあり方に関わっては、小さな政府づくりに向けた、地方分権(「三位一体改革」)・市町村合併(「平成の大合併」)の大波が住民の暮らしを洗っている。国や地方行政によるいわゆる公共事業を軸とした地域経済活性化策も大きな転機を迎えている。市町村合併の最大の促進剤は、小さな自治体の財政危機であるが、それは過疎・高齢化と、農業を中心とした地域産業の衰退による税収減を大きな背景としており、さらに特例法などによる合併に向けた誘導政策がある。
 このような中で、小さな村や町は、自立を迫られ、地域経済の活性化のための新たな方策、住民の暮らしを守る手立てを探ることを余儀なくされているのである。
本書で登場する町やむらも、こうした条件下におかれた、ごくふつうの地域である。

 本書は、「元気な集落づくり事業」を進める京都府丹後広域振興局と京都府立大学研究チームの共同作業の成果をまとめたものである。事業は、魅力的で活力あふれる集落づくりを目指して、ワークショップや地域づくり組織の結成、地域資源の発掘、地域ビジョンの作成とその実現に取り組むもので、これを振興局の事業チームと京都府立大学の「地域貢献型特別研究」のグループの共同ですすめようとするものである。二〇〇六年度は、丹後地域における村づくりの先進事例として、京丹後市大宮町における取り組みの経過や現在の到達点・課題などについて評価・分析をすすめ、二〇〇七年度においては、同市峰山町鱒留地区をモデルに、振興局事業チームが京丹後市の協力も得て、住民によるワークショップの支援やむらづくりビジョンの実現支援に取り組むと共に、京都府立大学研究チームが学生の参加も含め、地域資源の調査や、資源を活かしたビジネスモデル(むらづくりのアイディア)の提案に取り組んだ。
 鱒留地区は、従来特別な取り組みがあったわけではなく、むしろ「ふつうのむら」におけるむらづくりの最初の一歩を踏み出す試みの舞台となったものである。二カ年の取り組みの過程で、今日では住民によるいくつかの新しい活動が芽生えている。農を活かした村づくりとしての特産品づくり、児童公園跡地の活用、福祉的視点からの集落マップづくりなど、いずれも、地域の資源にあらためて目を向ける、集落の一〇年後二〇年後をイメージして集落の今を調べるといった、地域を住民の目でとらえなおす、地域に潜在している問題を発見する、つまり、地域課題、生活課題を住民の意識にのぼらせるという、むらづくり・まちづくりにおける最初の一歩であり、最も重要で大きな力のいる中身をもったものである。
 日本全国に先進と呼ばれるむらづくり・まちづくりの取り組みは、今日あまたあるといっても過言ではない。それぞれの個性ある取り組みの紹介も盛んである。本研究に関連しても、宮崎県綾町、鳥取県智頭町など事例調査を行った。本研究はそうした事例報告に単に一例を加えようとするものではなく、“最初の一歩”を、住民・行政(職員)・大学の共同で踏み出す試みに含まれる、学習的・人間形成的契機を取り出し、ささやかな一歩を確かなあゆみに変え、その速度を増していくための展望を探ろうとするものである。そのような意図を『ふつうのむらが動くとき』というタイトルにこめた。

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