| はじめに―建替えで失われたもの
ある高齢者のつぶやき/2つのサステイナビリティ―居住の継続と居住空間の継承/公団と団地再生/居住者の参加/本書の構成
第1章 団地に住み続けることの意味と方法
1.継続居住を実現するために
(1)住み続けることの意味
(2)継続居住の保障
1)法による保障―憲法と住生活基本法/
2)事業者の対応は不充分
(3)居住者参加で継続居住を実現する
2.団地再生2つの方法
(1)マスハウジングから建替えへ
1)リニューアルか建替えか/2)マスハウジングの時代/
3)建替えへの切り替え
(2)ヨーロッパの団地再生から学ぶ
3.リニューアルではだめなのか?
第2章 公団の再生事業―問題点と事業力
1.公団住宅とリニューアルの現状
(1)団地の現状
1)公団賃貸住宅の概要/2)居住者と団地空間の実態/
3)住宅の老朽化と耐用性
(2)リニューアルも実施されてきた
1)住戸・住棟の改善/2)屋外空間の改善/
3)最近の取り組み
2.公団の建替え事業とその問題点
(1)建替え事業とは
1)建替え事業の目的/2)建替え事業の概要
(2)建替え事業の問題点
(3)建替え一辺倒と残地処分
1)耐用年数の半分で建替え/2)民間への残地処分
(4)「戻り入居家賃」の高額化
1)建替え後の家賃設定はどうなっているか/
2)「戻り入居家賃」のさらなる減額を
(5)居住空間の変ぼう
1)ヒューマンスケールでなくなる/
2)高密・高層化は問題が多い/
3)屋外空間が貧弱化している/
4)まちづくりの発想が乏しい/
5)景観への配慮が欲しい
(6)コミュニティの「絆」が切れる
(7)居住者参加のしくみがない
―建替え事業の悩みをシミュレーションする
3.蓄積された公団の事業力を生かせないか?
(1)企画力・計画力・設計力
(2)関連技術の研究開発力
(3)事業関連組織間での調整力
(4)培った多様な事業手法
第3章 香里団地居住者の継続居住への思い
1.香里団地をとりあげる
2.香里団地の自治活動と建替え
(1)関西初の大規模団地
(2)コミュニティと自治会活動の変遷
1)コミュニティ活動/2)自治会活動
(3)香里団地の建替え
1)建替えの全体概要/2)建替えマスタープラン/
3)居住者の建替え対策
3.けやき東街居住者の思いと生活
(1)けやき東街の「まち」の変化
(2)居住者の思いから学ぶ
1)インタビューの概要/2)インタビューのまとめ/
3)D、E両地区へのメ ッセージ
(3)建替え前後における高齢者の生活変化
1)なぜ単身高齢者か/2)インタビュー内容/
3)建替えが生活に与えた影響
4.D地区居住者の思い
(1)D地区居住者の意向
1)アンケートについて/2)アンケート調査結果/
3)まとめ
(2)D地区は「集約型団地再生」
5.さいごに
第4章 居住者参加で住み続ける―公団先進事例紹介
1.居住者参加について
(1)居住者参加の5段階
(2)公団における居住者参加
1)参加の段階/2)自治会が中心となる
2.団地再生における自治会活動
(1)全国自治協の活動と役割
1)「全国自治協」とは/
2)全国自治協の建替え反対活動
(2)自治会活動の成果と課題
1)居住空間整備面での成果/2)自治会活動の課題
3.居住者参加の団地再生事例紹介
(1)常盤平団地(千葉県松戸市)
―建替え中止で居住継続
1)常盤平団地について/2)建替えを中止させた/
3)建替え中止までのいきさつ/
4)建替え中止の意義と課題/5)さいごに
(2)金町団地(東京都葛飾区)―裁判で住棟存置を勝ち取る
1)明け渡しを求められて/2)着手時の建替え事業概要/
3)自治会の取り組み/4)運動の意義
(3)前原団地(千葉県船橋市)
―NPO参加による子育て施設の整備
1)多様な関連施設の要求/2)自治会の取り組み/
3)まとめ
(4)武蔵野緑町パークタウン(東京都武蔵野市)
―質の高い居住空間を創出
1)質の高い居住空間を創出/2)建替え事業の取り組み/
3)居住空間の継承/
4)居住者、公団、武蔵野市の三者協働/
5)団地を育てる/6)さいごに
(5) 多摩平団地(東京都日野市)
―三者協働による団地再生
1)多摩平団地について/2)三者協働の成立としくみ/
3)「三者勉強会」における公団職員の活躍/
4)成果と今後の展開
第5章 都市機構の団地「再編」方針批判
1.政府の都市機構「整理・合理化」
(1)都市公団以降のうごき
(2)整理・合理化計画批判
1)「規制改革・民間開放の推進に関する第3次答申」
(2006年12月)について/
2)「独立行政法人整理合理化計画」(2007年12月)
について
2.「UR賃貸住宅ストック再生・再編方針」について
(1)「方針」の特徴
(2)「方針」批判と反対運動
1)削減理由が不明確 ―なぜ削減してまで民間用地を
捻出するのか?/2)団地別整備方針―まだ使える住
宅をなぜつぶすのか?/3)居住者・市民の反対運動
終章 UR賃貸住宅に住み続ける
1.再生居住空間のイメージ
(1)リニューアル中心
1)住棟の存置/2)再生デザイン/
3)住棟・住戸改善/4)屋外について/
5)リニューアルしながら建替える/
6)団地内での新築、あるいは新規住宅の供給/
7)周辺も含めた再生
(2)団地再生のモデル
2.都市機構の活かし方・あり方
(1)事業の継承と展開
1)技術力・マンパワーの活用/
2)再生に関する研究と技術開発
(2)都市機構の今後
3.居住者参加から協働へ
(1)住み続けたいという気持ちは強い
(2)多様な参加事例を数多く輩出させる
(3)居住者・市民による団地を超えた協働へ
おわりに
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はじめに―建替えで失われたもの
+ ある高齢者のつぶやき +
現在、関西のある「公団」大規模団地建替え後の高層賃貸住宅に住んでいる女性高齢者の話である。
女性は、東京オリンピックの開かれた1964年(昭和39年)にその“あこがれ”の団地中層住宅に入居した。家賃と共益費合わせて月5700円。当時、夫の給料からすれば決して楽な支払いではなかった。しかし、折りしも時代は高度経済成長期。所得も次第に増え、団地の生活関連施設の整備も進み、快適な団地生活を送ってきた。年月も経ち次第に齢も重ね、夫婦二人だけの生活になるにつれ、“この団地のこの住戸”に愛着が湧き、このままずっと住み続けたいと考えるようになってきた。
ところが、今から十数年前のことであるが、降って湧いたように住んでいた団地の建替えがはじまった。当時支払っていた家賃に比べて建替え後にそのまま入居したときの家賃(戻り入居家賃)が、最終的には2〜3倍と大幅に増額することがわかった。そんな高額な家賃を将来払えるかどうか不安になり、その他の事情もあって悩んだあげく、やむなくいったん団地を後にして、子ども世帯と同居することにしたのである。
しかし、退去はしたものの、住み続けてきた団地が忘れられなかった。同居後色々考えもしたが、住み慣れた団地にもう一度帰ることを決意した。団地にそのまま住んでいれば、「戻り入居者」として「家賃の減額制度」の適用を受けることもできたが、いったん団地を退出したためにその権利も失うことになった。その女性は結局、2001年に一般公募枠で同じ団地の建替え後の高層住宅に入居し、以来その団地に住み続けている。現在の家賃は月額約8万円。将来の支払いがずっと可能かどうか心配だという。
その女性は住み続け、住み慣れた団地への思い入れが深く、愛着も強かった。かつて自分たち夫婦が住んでいた棟の部屋番号にあわせて、再入居後同じ番号の住棟・住戸を選んだほどである。女性は、「景観も大きく変わり、緑豊かでゆったりとした団地が、息の詰まるような高層団地になってしまったのは残念だ」、と盛んに嘆かれていた。また、「建替え前の団地では、遠くの山々、夏の花火、団地の公園や木々の緑が居ながらにして楽しめた。友だちや隣近所との付き合いや夏祭り、行事もいろいろあったが、今はもうすっかりなくなってしまった。おしまいだ」と落胆の様子でつぶやかれた。
この女性のような人たちにとってみれば、建替え事業によって生じる問題とは、単に高額化する家賃による団地からの退去だけではないことがわかる。慣れ親しんだ団地の環境や景観の耐え難い変貌、あるいは、紡いできた人間関係・コミュニティが寸断されることなど、生活そのものへの大きな打撃となっているのである。
+ 2つのサステイナビリティ―居住の継続と居住空間の継承 +
この女性高齢者の話を聞いていると疑問が湧いてくる。
「公団の団地再生は、どうしても建替えでないとだめなのか? リニューアルではだめなのか?」という疑問である。
女性の住む団地は建設後数十年経過しており、何らかの再生の必要性が高まっているのは事実である。とはいえ、建替えしなくてもまだ使い続けることができたのではないのか。リフォームによる改善であれば、その夫婦は悩むこともなく、また、二度の引越しも不要で、そのまま住み続けることができた。さらには、生活を圧迫するような高額な家賃を払わずとも住み続けることができたであろう。建替えさえしなければ、高層化による団地の変貌も避けられ、団地内の人々との付き合いも継続できたはずだ。
女性の話を整理しよく考えると、団地再生における「居住の継続」と「居住空間の継承」という2つのサステイナビリティの問題にいきつく。つまり、前者は今まで住み続けてきたように、これからも居住者の意向により住み続けることができるかどうかの問題、また、後者については団地の居住空間を丸ごと可能な限り維持・保全し、必要に応じてリニューアルによって継承していくことができるのではないか、という問題である。
日本のこれまでの公共賃貸住宅団地の建替え事業においては、この2つの理念の実現が共に不充分であった。
本書では、戦後の「すまい・まちづくり」において大きな役割を果たしてきた公団(現在の「独立行政法人都市再生機構(都市機構)」を主対象に、この2つのサステイナビリティについて考えている。同公団が「すまい・まちづくり」分野で蓄積してきた多様な事業力を、今後は都市機構として団地再生に発揮して欲しいと願うからである。
+ 公団と団地再生 +
公団はこれまで、発足後50年ほどの間で、大都市圏で厖大な量の住宅供給、管理そして建替えを行ってきた。また、“すまいづくり”のみならず、団地開発をはじめ市街地の再開発・整備、都市開発といった“まちづくり”などの事業も手がけてきた。すまいづくりの面では、戦後の都市における「集住様式」を創ったという点での高い評価があり、かつ、量の面でも賃貸住宅90万戸程の供給実績がある。そこでの居住者数は、神戸市(150万人)や京都市(146万人)の人口を上回る規模である。
一方、当然のことながら、公団賃貸住宅も次第に老朽化し、再生の必要がでてくる。比較的新しい団地については、様々な技術を駆使して、リニューアルも行われてきた。ところが、建設後35年経過した団地については、一律的に建替え対象になり、充分使用に耐えうると思われる住宅でさえも「建替え」が進められてきた。「居住空間の継承」が疎んじられてきたのである。この点では、いくつかのヨーロッパの国々での団地再生と方向が大きく異なっている。居住者や市民の立場からすると、このヨーロッパの考え方からも学びながら、公団においても実績・技術的蓄積のあるリニューアルを中心にした団地再生への方向転換がぜひとも必要である。
ところがである。
ごく近年、公団が都市機構に再編されるなかで、これまで公団が約20年間行ってきた建替え事業の流れの方向にさえ逆行する事態になってきた。その結果として、2007年末都市機構は、建替えすらやめて、ストック賃貸住宅77万戸のうちまずは8万戸除却し、敷地あるいはその残地を民間事業者等へ売却処分する、という「再編」計画を公表した。2008年の年明けから即実施されだしたが、「リニューアル中心の方向」どころの話ではない状況になりつつある。
+ 居住者の参加 +
さらには、居住の継続を実現・促進する上で大きな力となっている団地再生への居住者の参加についても、公団を事例に検討する。数多くの建替え団地の中には、ごく少数ではあるが団地居住者が自治会などを通して建替えに反対する運動を進めてきた事実があるからである。公団や行政との話し合いによる居住者の参加によって、「居住空間の継承」という面では充分ではないが「継続居住」という点では大きな成果をあげており、注目されている。
例えば建替え後の戻り入居家賃の引き下げをはじめ、公団住宅存置、公営住宅・高齢者福祉施設あるいは子育て支援施設などの団地内導入により、みんなが住み続けるための様々な工夫・努力がなされ、結果として継続居住が進展しているのである。
これらの事例は少数ではあるが、今後居住の継続ひいては団地再生のあり方を切り開く意味で、極めて重要な意義をもっている。
+ 本書の構成 +
本書では、2つのサステイナビリティのうち、継続居住に重点を置き、まずは一般論としてその意味を考え、実現方法を提起する。それに基づき、公団をとりあげ、団地再生において発揮し蓄積してきた今後とも使用可能な事業力あるいは逆に、建替え事業における問題点を具体的に指摘した。ついで、公団居住者の団地への思い入れや居住者参加の事例を紹介することにより、継続居住の重要性と可能性を主張している。これらを受けて、近年の都市機構による団地「再編」方針について批判的に検討し、最後に今後のUR賃貸住宅団地の再生イメージを提案している。
本書を読んでいただき、「誰でもが住み続けることができる」ことをめざした団地再生を考えるためのヒントにしていただければ幸いである。
◆◆◆関連記事◆◆◆
・読売新聞 2008年9月19日版 くらし・家庭面
・朝日新聞 2008年12月23日版
・月刊「ゆたかなくらし」2009年3月号
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